対象となるアスベスト(石綿)関連疾患

中皮腫

肺・肝臓・胃・心臓など、内臓を覆う膜の表面を覆っている薄い細胞層を中皮といい、この中皮細胞に発生する悪性腫瘍(がん)を中皮種といいます。
中皮腫はアスベスト(石綿)のばく露(さらされて吸引すること)から発症までの潜伏期間が、20~50年前後と非常に長い病気です。1970~80年代においてアスベスト(石綿)が多く使われていたので、今後、潜伏期間を経て発症する方が増加すると考えられます。
悪性中皮腫の患者のうち、約8割が悪性胸膜中皮腫、約2割弱が悪性腹膜中皮腫、残りがその他の部位からの発症となります。

中皮腫の症状は、発症する部位によって異なり、胸膜中皮腫では胸の痛みや咳、胸に大量の水が溜まることによる呼吸困難や胸部圧迫感が起こります。これらは中皮腫に特徴的な症状とはいえないため、早期の発見が難しい病気です。
腹膜中皮腫の場合は、腹腔内の病気であるため早期では症状が出ません。進行すると、お腹に水が溜まり、張りを感じたり、腹痛や腰痛、食欲の低下、排便の異常、腹部のしこりなどの症状が出ます。

肺がん(原発性肺がん)

原発性肺がんは、気管支あるいは肺胞を覆う上皮に発生する悪性の腫瘍です。喫煙などアスベスト(石綿)以外の多くの原因によっても発症します。
そのため、アスベスト(石綿)にばく露したことが、原発性肺がんと因果関係があると、医学的・ばく露歴等から判断できる場合にアスベスト(石綿)関連疾患としての「肺がん」と認定されます。
アスベストのばく露から肺がんを発症するまでの潜伏期間は、30~40年程度と長く、アスベスト(石綿)にばく露した総量が多いほど、肺がんのリスクが高くなるといわれています。

また、肺がんの最大の要因は喫煙ですが、アスベスト(石綿)にばく露し、さらに喫煙をしている方は肺がんの危険性が非常に高まることが報告されています。
喫煙しない人の肺がんの危険性を1とすると、喫煙者は約10倍、喫煙者でアスベスト(石綿)にばく露した人は約50倍とする報告もあります。

原発性肺がんの症状は、咳や痰、血痰といった症状がよくみられますが、無症状で胸部エックス線検査や胸部CT検査の異常として発見されることもあります。

石綿肺

石綿肺は、アスベスト(石綿)を大量に吸い込むことで、肺が線維化する肺線維症(じん肺)という病気の一つです。
肺の線維化を起こす原因は、アスベスト(石綿)以外にも、粉じん、薬品などがありますが、アスベスト(石綿)のばく露による肺線維症を「石綿肺」と呼んで区別しています。
石綿肺は、通常、アスベスト(石綿)を大量に吸い込んだ労働者に起こり、ばく露から10年以上経過した後に、石綿肺の症状が現れます。ただし、石綿肺の診断は難しく、間質性肺炎や肺気腫などの診断を受けることもあるようです。

石綿肺の初期症状としては、息切れや運動能力の低下、咳や痰が多く見られます。アスベスト(石綿)のばく露を中止した後も、症状は徐々に進行して呼吸困難になり、重度の息切れや呼吸不全を引き起こします。
また、肺がん、中皮腫、気胸、胸水、気管支炎などを合併することもあります。

びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚とは、アスベスト(石綿)のばく露によって、肺を覆う胸膜が炎症を起こして線維化し厚くなる病気です。線維化が進むと、肺の表面が肥厚して硬くなり、膨らまなくなるため、呼吸機能が低下し、息切れなどの症状が現れます。
高濃度でアスベスト(石綿)にばく露し続けたことで発症することが多く、潜伏期間は30~40年です。職場でのアスベスト(石綿)のばく露の場合、ばく露期間は3年以上の症例がほとんどです。
なお、びまん性胸膜肥厚は必ずしもアスベスト(石綿)のばく露によるものとは限らず、結核性胸膜炎などの感染症やリウマチ性疾患でも発症する場合があります。

びまん性胸膜肥厚の初期は無症状の場合が多く、あっても軽い息切れ程度であるため、病気の発見が難しくなります。しかし、進行すると肺の動きが悪くなり、呼吸困難や胸痛、呼吸器感染などがみられ、アスベスト(石綿)が原因である場合には、石綿肺が合併している場合もあります。

良性石綿胸水

良性石綿胸水とは、アスベスト(石綿)のばく露によって発生する胸水のことです。「良性」とは、悪性ではない胸膜炎であるという意味で、症状として何も発生しないという意味ではありません。
潜伏期間はかなり幅があり、ばく露から10年以内に発症することもあれば、40年以上経ってから発症することもあります。

良性石綿胸水は、自覚症状がなく、健康診断で発見されることもあるようです。胸痛、発熱、咳、呼吸困難などの自覚症状で気づくこともありますが、約半数の人は胸水が自然に消失して治癒します。
そのため、良性石綿胸水は、独立行政法人環境再生保全機構が取り扱う石綿健康被害救済給付制度の対象外となっています。
しかし、中には何度も胸水の発生を繰り返して、びまん性胸膜肥厚に進行し、呼吸機能障害をきたすこともあります。
また、胸水が見つかっても、良性のものではない可能性があります。悪性腫瘍に発展する場合もあるため、3年間の経過観察を経て、やっと良性石綿胸水と判断されることから、確定診断が難しい病気です。

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