はじめに
建設現場で働き、アスベスト(石綿)による健康被害に遭われた方にとって、「労災保険」と「建設アスベスト給付金」は、救済の大きな二本柱です。労災保険は手厚い年金などが、給付金制度はまとまった一時金が受けられる、それぞれに魅力的な制度です。
そこで、多くの方が抱くのが、「この二つの制度は、両方もらえるのだろうか?」という当然の疑問です。もし両方もらえるなら、被害者の方々の生活再建にとって、これほど心強いことはありません。
結論から申し上げると、答えは「YES」です。ただし、全額をそのまま二重にもらえるわけではなく、「併給調整」という一定のルールが適用されます。この記事では、この少し複雑な「併給調整」の仕組みについて、その理由と考え方を解説します。
Q&A
Q1. なぜ、両方もらえるのに「調整」が必要なのですか?そのまま全額はもらえないのでしょうか?
それは、同じ損害に対して、国から二重に補償を受けることはできない、という公的補償制度の基本的な考え方があるためです。例えば、病気によって将来得られるはずだった収入(逸失利益)を補うために、労災保険から年金を受け取っているとします。その上で、同じく逸失利益の補填を目的とする建設アスベスト給付金を全額受け取ってしまうと、同じ損害に対して国から二重の支払いが行われることになります。これを避けるため、性質が重なる部分について、差し引き計算(調整)が行われるのです。
Q2. どのくらい調整(減額)されるのですか?計算は難しいですか?
調整額の計算は、複雑であり、ご自身で行うのは難しいと言えます。調整されるのは、建設アスベスト給付金の額から、既に受け取った(または将来受け取る)労災保険の給付金のうち、法律で細かく定められた一定の範囲のものが差し引かれる形になります。どの労災給付が調整の対象になるかは専門的な知識が必要です。
Q3. 調整されるなら、両方申請する意味はあまりないのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。調整されたとしても、両方の制度を利用するメリットは非常に大きいです。労災保険の給付(特に年金)は、継続的な生活の安定に繋がり、建設アスベスト給付金は、まとまった一時金として、当面の生活費や住宅の改修、ご家族のために使うなど、柔軟な活用が可能です。
解説
併給調整の基本的な仕組み
「労災保険」と「建設アスベスト給付金」を両方利用する場合の、併給調整の基本的な考え方を理解しましょう。
STEP1:まず、労災保険の給付を受ける
建設業に従事していた労働者の方がアスベスト関連疾患にかかった場合、まずは労働基準監督署に「労災保険」の申請を行います。これにより、治療費や休業補償、障害(補償)年金や遺族(補償)年金などの給付が開始されます。
STEP2:次に、建設アスベスト給付金を請求する
労災認定を受けた後、あるいは並行して、「建設アスベスト給付金」の請求手続きを行います。
STEP3:給付金の額から、一部の労災給付が差し引かれる(=併給調整)
建設アスベスト給付金(例えば、悪性中皮腫なら1,150万円)が支払われる際に、調整が行われます。具体的には、これまでに受け取った、また将来受け取ることが確定している労災保険の給付金のうち、法律で定められた範囲の金額が、1,150万円から差し引かれます。
この調整の根底には、各給付の法的な性質の違いがあります。調整の対象となるのは、主に「逸失利益や慰謝料的な性質を持つ給付」です。一方で、実際にかかった費用を補填する「実費補填的な性質を持つ給付」は調整の対象外となります。
- 調整(差し引き)の対象となる労災給付(主なもの)
- 障害(補償)年金・一時金
- 遺族(補償)年金・一時金
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)年金
- 調整(差し引き)の対象とならない労災給付(主なもの)
- 療養(補償)給付(治療費のこと):治療費は実費の補填なので、労災で治療を受けていても給付金は減額されません。
- 介護(補償)給付
- 葬祭料
具体的なイメージ
例えば、悪性中皮腫で労災認定され、既に遺族(補償)一時金として800万円を受け取っているご遺族が、建設アスベスト給付金(1,150万円)を請求したとします。
この場合、単純計算すると、1,150万円から、調整対象となる労災給付額(※実際の計算はより複雑です)が差し引かれた金額が、給付金として支払われることになります。結果として、「労災保険の給付」+「調整後の建設アスベスト給付金」が、ご遺族の受け取る補償の総額となります。
なぜ、弁護士への相談が必要なのか
この複雑な併給調整の仕組みを前に、弁護士の存在は重要です。
- 申請手続きの最適なタイミングを判断
労災と給付金、どちらを先に申請し、どのタイミングで進めるのが最もスムーズで有利なのか。弁護士は、これまでの豊富な経験に基づき、ケースバイケースで最適な手続きの段取りを組み、実行します。 - 依頼者の利益を最大化する
私たちの使命は、依頼者の利益を最大化することです。併給調整を正しく理解し、損がないように手続きを進めることはもちろん、これら公的給付に加え、国や企業への損害賠償請求まで見据えることで、皆様が受け取るべき補償の総額を最大化することを目指します。
まとめ
建設アスベスト被害に遭われた方にとって、労災保険と建設アスベスト給付金の関係は、非常に重要です。
- 労災保険と建設アスベスト給付金は、両方もらうことが可能です。
- ただし、同じ損害を二重に補償しないため、「併給調整」として、一部の労災給付額が給付金額から差し引かれます。
- 調整されたとしても、両方の制度を利用するメリットは大きく、諦める必要はありません。
「両方もらえるのか」といった疑問や不安は、専門家に相談することで解消できます。まずは、あなたの状況をお聞かせください。
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