コラム

2025/10/14 コラム

アスベスト被害者が利用できる3つの救済制度と全体像

はじめに

アスベスト(石綿)による健康被害と診断され、病気そのものへの不安に加え、治療費や今後の生活に対する経済的な不安を抱えていらっしゃる方は、決して少なくありません。

しかし、どうか知ってください。アスベストによる健康被害は、国や企業の責任が認められた社会問題であり、被害に遭われた方々を救済するために、国によって複数の手厚い公的制度が用意されています。これは、あなたやご家族だけで背負うべき問題ではありません。

とはいえ、「制度がたくさんあって、何が何だか分からない」というのが、多くの方の正直な感想ではないでしょうか。この記事では、アスベスト被害者を支える救済制度の「全体像」を、できるだけ分かりやすく解説します。まずは全体像を掴むことが、ご自身の権利を知り、適切な救済への第一歩を踏み出すことに繋がります。

Q&A

Q1. 制度がたくさんあるようですが、これらは全部もらえるのですか?

基本的には、ご自身の状況に最も合った一つの制度を利用することが多いですが、条件を満たせば複数の制度を組み合わせて利用できるケースもあります。例えば、「労災保険」と「建設アスベスト給付金」は、建設業に従事されていた労働者の方であれば、両方を受給できる可能性があります。ただし、その場合、同じ損害(例えば、病気によって失われた将来の収入)に対して補償が二重にならないよう、給付額が調整(減額)される「併給調整」という仕組みがあります。どの制度をどう組み合わせるのが最も有利かは、専門的な判断が必要になります。

Q2. 救済制度の申請手続きは、自分でもできますか?

制度上は、ご自身で申請することが可能です。しかし、どの制度を利用するにしても、過去の職歴やアスベストへのばく露の事実、病状などを、多くの専門的な書類や証拠を用いて証明する必要があり、多大な時間と労力がかかります。特に、闘病しながら、あるいはご家族の介護をしながら手続きを進めるのは、心身ともに大きな負担となります。会社の倒産などで資料が残っていない場合、証拠集めはさらに困難になります。専門家である弁護士に依頼すれば、これらの複雑な手続きのサポートを得られます。

Q3. どの制度が一番良い(補償が手厚い)のですか?

「どの制度が一番良いか」は、その方の状況によって異なります。例えば、会社員として働いていた方にとっては、治療費の自己負担がなくなるだけでなく、継続的な年金給付が期待できる「労災保険」が手厚い制度です。一方、建設業で一人親方として働いていた方にとっては、裁判を経ずに国からまとまった一時金が受け取れる「建設アスベスト給付金」が中心的な救済策となります。ご自身の働き方や病状に合った「最適な制度」を見つけることが重要であり、それを見極めるのが専門家の役割です。

解説

アスベスト被害者を支える3本の柱と、もう一つの重要な権利

アスベスト被害者のための公的な救済制度は、大きく分けて以下の3つの柱で成り立っています。ご自身がどこに当てはまるかをイメージしながらお読みください。

制度①:労働者災害補償保険(労災保険)

  • 一言でいうと 「仕事が原因の病気」に対する、働く人のための基本的な保険制度です。
  • 主な対象者: 会社などに「労働者」として雇用されていた方(正社員、契約社員、アルバイト、日雇い労働者など)。
  • 目的・特徴: 仕事中にアスベストにばく露して病気になった場合、それは業務上の災害(業務上疾病)であると認め、手厚い補償を行います。主な給付内容として、治療費の自己負担がなくなる「療養(補償)給付」、療養で仕事を休む間の収入を補う「休業(補償)給付」、後遺障害が残った場合の「障害(補償)年金・一時金」、そして亡くなられた場合に遺族の生活を支える「遺族(補償)年金・一時金」などがあり、補償内容が充実しています。

制度②:石綿健康被害救済法

  • 一言でいうと 労災保険では救えない被害者を幅広く救済するための「セーフティネット」です。
  • 主な対象者: 労災保険の対象とならない方全般が対象です。具体的には、自営業者、一人親方(労災保険に特別加入していない場合)、労働者のご家族(家庭内ばく露)、工場周辺の住民(近隣ばく露)、アスベストばく露の原因が特定できない方などが含まれます。また、労災保険の請求期限(時効)が過ぎてしまった労働者の遺族を救済する制度もこの法律に含まれています。
  • 目的・特徴: 労災保険のすき間を埋め、すべてのアスベスト被害者を救済することを目的としています。認定されると、医療費の自己負担分や、療養手当などが支給されます。

制度③:建設アスベスト給付金制度

  • 一言でいうと 国の責任を背景とした、建設労働者のための「特別な給付金」です。
  • 主な対象者: 特定の期間(主に1975101日から2004930日)に、特定の建設業務に従事していた方(一人親方、個人事業主も含む)が対象です。
  • 目的・特徴: 国がアスベスト規制を怠ったために被害が拡大したという司法判断(2021517日最高裁判決)を受け、被害を受けた建設労働者を、裁判を経ずに迅速に救済するために創設されました。病状に応じて、国から直接550万円から最大1,300万円の一時金が支払われます。

補足

もう一つの重要な権利:損害賠償請求(裁判)

上記3つの制度は、国が定めた法律に基づく「行政からの給付」です。これらとは別に、被害者には、アスベスト対策を怠った企業や国に対し、民事上の責任を問い、損害賠償を求める「第4の権利」があります。

この損害賠償請求では、公的給付ではカバーされない「慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)」を請求できるのが大きな特徴です。アスベストによる病気の苦しみ、将来への不安、そして大切な家族を失った悲しみといった精神的損害に対する正当な賠償を得るためには、裁判等の法的手続きが不可欠です。公的給付は経済的損失の補填が中心であり、被害者の苦しみに見合った完全な賠償とはいえません。損害賠償請求は、被害に見合った正当な賠償を得るための、重要な選択肢なのです。

なぜ、弁護士への相談が必要なのか

これら複雑な制度と権利を前に、どの道へ進むべきか。弁護士は、皆様の頼れる「ナビゲーター」となります。

  1. 最適な救済ルートの設計
    弁護士は、ご相談者様の職歴、病状、ご家庭の状況などを丁寧にお伺いし、上記3制度と損害賠償請求の中から、どの選択肢を、どの順番で、どのように組み合わせて請求するのが最も有利かを判断し、最適な救済プランを設計します。
  2. 手続きの代行
    どの制度を利用するにしても、申請には膨大な書類と専門知識が必要です。弁護士にご依頼いただければ、これらの煩雑な手続きを代行しますので、皆様は安心して治療や生活に専念することができます。
  3. 「慰謝料」という権利の実現
    慰謝料を国や企業に請求し、法的な場でその権利を主張できるのは、法律の専門家である弁護士だけです。公的給付に留まらず、皆様が受けた苦しみに見合う、最大限の賠償を勝ち取るために戦います。

まとめ

アスベスト被害に遭われた方を支える制度は、一つではありません。

  • 働く人のための「労災保険」
  • 労災の対象外の人を救う「石綿健康被害救済法」
  • 建設労働者のための「建設アスベスト給付金」

という3つの大きな柱があります。そして、それらに加え、慰謝料を求める「損害賠償請求」という、被害の完全な回復を目指すための重要な権利も存在します。

ご自身の状況によって、選ぶべき道は異なります。自己判断で「自分は対象外だ」と諦めてしまう前に、まずは全体像を把握し、すべての可能性を検討することが大切です。アスベスト被害に関する無料相談を通じて、皆様にとっての最適な救済プランをご提案いたします。


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