はじめに
肺がんと診断されたとき、もしあなたに喫煙の習慣があれば、真っ先に「タバコのせいだ…」とご自身を責めてしまうかもしれません。そして、病気の原因は自分にあるのだからと、誰かに補償を求めるという発想には至らない方がほとんどではないでしょうか。
その考えが、あなたやご家族が受け取るべきだったかもしれない、正当な補償への道を閉ざしてしまっているとしたら…。
過去にアスベスト(石綿)を扱う職場で働いた経験のある方の場合、その肺がんは、喫煙だけが原因ではない可能性があります。アスベストばく露と喫煙、二つの要因が重なることで発症リスクが爆発的に高まった、「業務上疾病」としての側面があるのです。
この記事では、多くの方が誤解している「喫煙歴とアスベスト肺がんの補償」の関係について、正しい知識と対処法をお伝えします。
Q&A
Q1. 結局のところ、タバコを吸っていたら、補償は不利になるんですよね?
アスベストによる肺がんの労災認定や、建設アスベスト給付金の認定において、申請者に喫煙歴があるかどうかは、認定の要件とされていません。つまり、審査の場で「あなたがタバコを吸っていたから不利です」と言われることは一切ないのです。審査官が見るのは、あくまで「アスベストにどれだけばく露したか」という客観的な事実だけです。
Q2. なぜ「喫煙歴は関係ない」と言い切れるのですか?
それは、医学的にも法的にも、そのように確立されているからです。医学的には、アスベストと喫煙には、肺がん発症リスクを掛け算のように増大させる「相乗効果」があることが分かっています。法的には、国もこの事実を認めており、労災保険や給付金制度の設計において、喫煙歴を排除する要件を設けていません。事実、喫煙歴のある方がアスベスト肺がんで労災認定されたり、給付金を受け取ったりした事例は、数えきれないほど存在します。
Q3. それでも、自分の肺がんはタバコが主たる原因のような気がします…
そのお気持ちはよく分かります。しかし、原因の割合を個人が判断することはできません。重要なのは、「アスベストばく露という、業務上の危険因子がなければ、あなたは肺がんにならなかったかもしれない」という可能性です。日本の補償制度は、業務上の危険が病気の発症に少しでも寄与していれば、救済の対象とするという考え方に基づいています。原因が100%アスベストである必要はないのです。「タバコのせい」という思い込みを一旦脇に置いて、過去の職歴というもう一つの原因に目を向けてみることが、解決への第一歩です。
解説
「相乗効果」という医学的真実
喫煙とアスベスト肺がんの関係を語る上で、重要なキーワードが「相乗効果」です。
例えば、以下のようにリスクを数値化して考えてみてください(数値はイメージです)。
- タバコを吸わない・アスベストも吸わない人の肺がんリスクを 「1」 とします。
- タバコは吸わないが、アスベストを吸った人のリスクは 「5倍」 になります。
- アスベストは吸わないが、タバコを吸う人のリスクは 「10倍」 になります。
では、「アスベストを吸い、かつ、タバコも吸う人」のリスクはどうなるでしょう?
足し算の「5+10=15倍」ではありません。正解は、掛け算の「5×10=50倍」です。
このように、複数の要因が合わさった時に、それぞれの影響が単純な足し算ではなく、掛け算のように爆発的に増大することを「相乗効果」と呼びます。この医学的な事実が、「喫煙者がアスベストにばく露するのは特に危険であり、だからこそ補償されるべきだ」という考え方の根拠となっているのです。
補償の審査で見られるのは「喫煙歴」ではない
労災認定や給付金制度の審査では、あなたの喫煙歴ではなく、「アスベストばく露の客観的な証拠」が重視されます。具体的には、以下の2点です。
- 医学的な証拠
胸部CT画像などに、「石綿肺」の所見や「胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)」といった、アスベストを吸い込んだ痕跡が写っているか。 - 職歴の証拠
アスベストばく露を伴う作業(建設業、造船業など)に、一定期間以上従事していたという事実を、公的記録や同僚の証言などで証明できるか。
審査官は、これらの客観的な証拠があるかどうかを淡々と判断します。そこに、あなたの喫煙歴が入り込む余地はありません。
なぜ、弁護士への相談が必要なのか
法律上、喫煙歴が補償の妨げにならないことは明確です。しかし、現実には、ご本人が「タバコのせいだ」と思い込んでしまったり、残念ながら医師でさえ「喫煙歴があるから」とアスベストの可能性を最初から否定してしまったりするケースがあります。こうした心理的、あるいは実務的な障壁を乗り越えるために、弁護士の存在が不可欠です。
- 思い込みからの解放と、権利への気づき: 私たちは、法律の専門家として、「あなたのケースは、喫煙歴があっても全く問題なく補償の対象となり得ます」と、明確な根拠と過去の多数の事例を基にお伝えします。これにより、皆様は「タバコのせい」という自己責任の呪縛から解放され、ご自身の正当な権利に気づくことができます。
- 客観的な「アスベストばく露」の証明に注力: 私たちは、問題の本質が喫煙歴ではないことを知っています。そのため、皆様に代わって、労災認定の鍵となる「医学的証拠」と「職歴の証拠」の収集・立証に傾注します。
- あなたに代わって、堂々と主張・交渉: 弁護士が代理人となることで、行政機関や企業に対し、喫煙歴の問題に惑わされることなく、アスベストばく露という事実に焦点を当てた法的な主張を堂々と展開することができます。
まとめ
肺がんの診断を受け、喫煙歴のある方に、私たちはお伝えします。
- 「タバコのせい」と、補償を諦めないでください。
- 喫煙歴は、アスベスト肺がんの労災認定や補償の妨げには一切なりません。
- 医学的には、むしろ喫煙者の方がアスベストによるリスクが高まる「相乗効果」が認められています。
- 補償の鍵は、喫煙歴ではなく、「アスベストばく露の客観的な証拠」を証明できるかどうかです。
その肺がんは、あなた一人の責任ではないかもしれません。日本の産業を支えるために、危険な環境で懸命に働いてきた結果なのであれば、あなたは国や企業から手厚い補償を受ける権利があるのです。
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