コラム

2025/09/26 コラム

アスベスト疾患と診断された方へ:まず何をすべきか?行動の5ステップ

はじめに

医師から、ご自身の病気が「アスベスト(石綿)に起因する可能性がある」と告げられたとき、多くの方が大きな衝撃を受け、頭が真っ白になってしまうことでしょう。今後の治療への不安、ご家族のこと、仕事や経済的なことなど、様々な思いが交錯し、何から手をつけて良いか分からなくなるのは当然のことです。

しかし、どうか焦らないでください。このような時こそ、一つひとつ、やるべきことを冷静に整理していくことが大切です。適切な手順を踏むことで、最善の治療を受ける道筋と、手厚い公的補償を得る道筋の両方を、同時に切り拓いていくことができます。

この記事は、アスベスト関連疾患と診断されたご本人様とご家族様のために、診断直後から「まず何をすべきか」を具体的な5つのステップに分けて解説する「行動マニュアル」です。この羅針盤が、皆様の次の一歩を照らす光となることを願っています。

診断直後のよくあるご質問

Q1. 治療のことで頭がいっぱいです。補償の手続きは後回しにしても大丈夫ですか?

はい、何よりも治療に専念することが最優先です。まずはご自身の体と心を大切にしてください。ただし、補償の請求には「時効」という法律上の期限があり、これを過ぎると権利が消滅してしまうという重大な問題があります。

特に注意が必要なのは、アスベスト被害者の救済制度が複数存在し、それぞれで時効の期間や起算点(時効のカウントが始まる日)が全く異なるという点です。例えば、労災保険の給付には2年または5年という比較的短い時効が設定されています。一方で、建設アスベスト給付金制度の請求期限は診断日や死亡日から20年です。さらに、石綿健康被害救済法に基づく給付金は、2022年の法改正により請求期限が大幅に延長され、ケースによっては死亡から25年以内や、特定の期日(例:令和14327日)までと定められています。国や企業に対する損害賠償請求の時効はさらに複雑で、民法の規定に基づき判断されます。

このように、利用できる制度によって時効のルールは迷路のように入り組んでいます。そのため、治療と並行して、できるだけ早い段階で一度、専門家である弁護士に相談だけでもしておくことをお勧めします。弁護士に依頼すれば、どの制度が利用可能で、いつまでに何をすべきかを正確に把握し、複雑な手続きはすべて任せることができます。ご本人様は安心して治療に集中できます。

Q2. 家族として、本人のために何ができますか?

ご家族のサポートは、ご本人にとって何よりの力となります。まずは、ご本人の不安な気持ちに寄り添い、精神的な支えとなってあげてください。その上で、ご本人に代わって情報収集をしたり、煩雑な手続きの準備をしたりといった物理的なサポートが非常に助けになります。例えば、この記事にあるような「やるべきこと」を一緒に確認し、分担して進めていくのも良いでしょう。また、弁護士との相談にご家族が同席することで、ご本人の負担が減り、話の内容を正確に共有することができます。

Q3. 証拠になりそうな書類は、何を保管しておけばよいですか?

今後の補償請求に備え、関係がありそうな書類は、捨てずにすべて保管しておくことが重要です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 医療関係
    診断書、診療明細書、お薬手帳、検査結果(血液検査データ、CT・レントゲンなどの画像フィルムやCD-R)、健康保険証
  • 職歴関係
    年金手帳、雇用保険被保険者証、給与明細、源泉徴収票、退職金証明書
  • その他
    建設業退職金共済(建退共)の手帳、現場や同僚と写っている古い写真、日記や手帳など。

些細なものが、後で重要な証拠になることがあります。

【解説】診断されたらやるべき5つのステップ

混乱した状況でも、この5つのステップに沿って進めれば、着実に道が開けていきます。

ステップ1:【最優先】病状を正確に把握し、治療方針を決める

まず取り組むべきは、ご自身の病気と向き合い、治療に専念できる環境を整えることです。

  • 主治医との対話
    病名、病状(ステージ)、今後の進行予測、治療法の選択肢(手術、化学療法、放射線治療、免疫療法など)とその効果・副作用について、納得できるまで主治医から説明を受けましょう。分からないことは遠慮なく質問し、ご自身の希望もしっかりと伝えることが大切です。
  • セカンドオピニオンの検討
    診断や治療方針に疑問や不安がある場合は、別の専門医の意見を聞く「セカンドオピニオン」も有効な選択肢です。より良い治療法が見つかることもあります。

ステップ2:過去の職歴(アスベストばく露歴)を振り返る

少し落ち着いたら、ご自身の過去の仕事を振り返ってみましょう。これが、法的な救済を受けるための土台となります。学校卒業後から現在まで、どんな仕事をしてきたかを時系列で書き出してみましょう。特に、建設業、造船業、自動車整備業、石綿製品の製造工場、ボイラー技士など、アスベストにばく露した可能性のある仕事について、会社名、場所、期間、具体的な作業内容などを思い出せる範囲で記録します。

ステップ3:関連する重要書類を整理・保管する

Q&Aでも触れた、医療関係や職歴関係の書類を、まとめてファイルなどに保管しておきましょう。この段階では、どれが重要か分からなくても構いません。「関係ありそう」と感じるものは、すべて取っておくことが肝心です。これらの書類は、弁護士が今後の請求方針を立てる上で、重要な情報源となります。

ステップ4:利用できる救済制度の全体像を知る

アスベスト被害者には、国によって手厚い救済制度が用意されています。すべてを詳しく理解する必要はありませんが、どのような選択肢があるのか、全体像を把握しておくと安心です。

  • 労災保険
    仕事が原因の場合
  • 石綿健康被害救済法
    労災の対象外(自営業者、主婦など)の場合
  • 建設アスベスト給付金
    建設業に従事していた場合
  • 国・企業への損害賠償請求
    慰謝料などを請求する場合

「自分には、こんなに多くの選択肢があるんだ」と知っておくだけでも、将来への見通しが明るくなります。

ステップ5:アスベスト問題に強い弁護士に相談する

ここまでのステップを踏まえたら、あるいは、どの段階からでも構いませんので、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。ステップ4で挙げた複雑な制度の中から、ご自身の状況に最も適した救済策を選び出し、実現に導くのが弁護士の仕事です。多くの法律事務所が無料相談を実施していますので、まずは電話してみることから始めてみてください。

なぜ、診断直後に弁護士へ相談するのが良いのか

診断直後の大変な時期に弁護士に相談することには、大きなメリットがあります。

  • 進むべき道の明確化
    弁護士は、皆様の「羅針盤」となり、治療以外の法的手続きについて、何を、いつ、どのように進めるべきかを明確に示します。これにより、先の見えない不安が解消されます。
  • 時効による権利消滅の防止
    前述の通り、補償請求には複雑な時効制度があります。早期に相談することで、知らぬ間に権利が消滅してしまうという最悪の事態を防ぐことができます。
  • 証拠の散逸防止
    時間が経つと、記憶は薄れ、書類も失われがちです。診断直後から弁護士が関与することで、重要な証拠を確実に保全することができます。
  • 経済的な見通しと安心の確保
    利用できる制度と、受け取れる補償額の見込みが早期に分かるため、経済的な不安が和らぎ、安心して治療に臨むことができます。
  • すべての手続きの代行による負担軽減
    ご依頼いただければ、その後のすべての法的手続きを弁護士が引き受けます。皆様は、最も大切な「治療」に専念できるのです。

まとめ

アスベスト関連疾患と診断されたら、誰でも動揺し、混乱します。しかし、どうか一人で抱え込まないでください。

まずは治療方針を固めることが最優先です。次に、職歴を振り返り、関係書類を保管しましょう。そして、「労災」「救済法」「給付金」「損害賠償」といった複数の救済の道があることを知ってください。最後に、これらの道を案内し、皆様に代わって歩む専門家(弁護士)に相談してください。

診断直後は、肉体的にも精神的にも大変な時期です。だからこそ、法的な問題は専門家に任せ、ご自身は心穏やかに治療と向き合うべきです。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、診断直後で何から手をつけて良いか分からない、という方からのご相談を、無料でお伺いします。まずは私たちに、あなたの声をお聞かせください。


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