【呼吸を妨げる硬い鎧】びまん性胸膜肥厚の症状と補償(胸膜プラークとの違い)
はじめに
アスベスト(石綿)にばく露した後の健康診断や人間ドックで、胸部X線写真の結果について、「胸膜が厚くなっていますね」と医師から指摘されたことはありませんか?
この「胸膜が厚くなる」という所見には、いくつか種類があります。その中でも、単なる痕跡ではなく、呼吸機能に影響を及ぼし、補償の対象となる病気が「びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)」です。
あまり聞きなれない病名かもしれませんが、これはアスベストばく露を原因とする、れっきとした病気の一つです。しかし、よく似た所見である「胸膜プラーク」と混同されたり、症状が比較的軽いために病気として認識されなかったりすることも少なくありません。
この記事では、「びまん性胸膜肥厚」という病気について、その症状や、よく似た「胸膜プラーク」との違い、そして受けられる補償の内容を解説します。
びまん性胸膜肥厚に関するQ&A
Q1. 「びまん性胸膜肥厚」と「胸膜プラーク」はどう違うのですか?
これは非常に重要な違いです。「胸膜プラーク」は、胸膜が“部分的”に、まるで“垢(プラーク)”のように厚くなった良性の「痕跡」です。これ自体は病気ではなく、呼吸機能にもほぼ影響しませんが、アスベストを吸った有力な証拠となります。一方、「びまん性胸膜肥厚」は、胸膜が“広範囲(びまん性)”にわたって厚くなる「病気」です。厚くなった胸膜が肺のふくらみを妨げるため、呼吸機能の低下を引き起こします。「部分的か、広範囲か」「単なる痕跡か、呼吸機能に影響する病気か」が大きな違いです。例えるなら、プラークは肋骨の内側にできた「たこ」のようなもので、びまん性胸膜肥厚はその「たこ」が広がり、肺を締め付ける「硬い鎧」になってしまった状態と言えます。
Q2. 症状は、胸が少し痛む程度です。こんな軽い症状でも補償の対象になりますか?
はい、対象となる可能性があります。びまん性胸膜肥厚の補償は、自覚症状の程度ではなく、客観的な呼吸機能検査の結果に基づいて判断されます。たとえ自覚症状が軽くても、呼吸機能検査などで法律の定める基準(「著しい呼吸機能障害」)を満たす低下が認められれば、労災保険や石綿健康被害救済法、建設アスベスト給付金制度などの対象となる可能性があります。症状が軽いからといって、見過ごしてしまうのは大変もったいないことです。
Q3. 治療法はありますか?
残念ながら、一度厚く硬くなってしまった胸膜を、薬などで元の状態に戻す根本的な治療法は現在のところありません。そのため、治療は、胸の痛みや呼吸困難といった症状を和らげるための対症療法が中心となります。だからこそ、病気によって失われた利益や、強いられた精神的苦痛に対して、金銭的な補償をきちんと受けておくことが、今後の生活の支えとして重要になってくるのです。
【解説1】びまん性胸膜肥厚とはどのような病気か
原因とメカニズム
肺は、「胸膜」という薄い二重の膜で覆われています。アスベスト繊維を吸い込むと、一部の繊維が肺を突き抜けて、この胸膜に達し、慢性的な炎症を引き起こします。この炎症が長年にわたって続いた結果、胸膜そのものが線維化し、分厚く硬くなってしまうのが、びまん性胸膜肥厚です。
潜伏期間は30年~40年と、アスベスト関連疾患の中でも比較的長いのが特徴です。
症状と診断基準
厚く硬くなった胸膜は、肺が呼吸の際に膨らむのを妨げる“硬い鎧”のようになってしまいます。これを医学的に「拘束性換気障害」と呼びます。
主な症状
- 息切れ(呼吸困難): 特に運動時に感じやすい。
- 胸の痛み: チクチクとした痛みが続くことがある。
- 乾いた咳(空咳)
診断・認定のポイント
労災保険などで認定されるためには、以下の基準をすべて満たす必要があります 2。
- アスベストばく露作業従事期間が3年以上あること。
- 画像所見で、胸膜が一定以上の範囲(例:片側の側胸壁の1/2以上)にわたって連続的に厚くなっていること。
- 呼吸機能検査で、著しい呼吸機能障害(例:パーセント肺活量(%VC)が60%未満)が認められること。
【解説2】びまん性胸膜肥厚で受けられる補償
びまん性胸膜肥厚と診断され、上記の認定基準を満たす方は、以下のような救済制度を利用できます。
① 労働者災害補償保険(労災保険)
仕事が原因で発症し、認定基準を満たした場合に対象となります。
主な給付内容
- 療養(補償)給付
治療費の自己負担分。 - 障害(補償)給付
残った呼吸機能障害の程度(障害等級)に応じて、年金または一時金が支給されます。 - 遺族(補償)給付
この病気が原因で亡くなられた場合、ご遺族に給付金が支給されます。
② 石綿健康被害救済法
労災の対象とならない方(自営業者、専業主婦など)が対象で、労災と同様に「著しい呼吸機能障害」が認定の要件となります。
- 主な給付内容
医療費、療養手当(月額約10.4万円)などの給付が受けられます。
③ 建設アスベスト給付金制度
過去に建設作業に従事していた方が対象です。「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」と診断された場合、以下の給付金を受け取れます。
- 給付金額: 1,150万円。
④ 国や企業に対する損害賠償請求
上記の公的給付とは別に、慰謝料などを国や企業に請求できます。
- 賠償金額の目安
国との訴訟上の和解では、最高1,300万円の賠償金が定められています。
なぜ、弁護士への相談が必要なのか
びまん性胸膜肥厚の補償請求は、医学的な判断が絡むため、専門家のサポートが有効です。
- 認定基準を満たすかの的確な判断
「著しい呼吸機能障害」という認定基準は、具体的な数値(%肺活量など)で定められています。弁護士は、皆様の呼吸機能検査の結果などを精査し、労災などの認定基準を満たす可能性があるかを的確に判断します。 - 他の疾患との鑑別と最適な主張
前述の胸膜プラークとの違いはもちろん、場合によっては肺がんなどの他の病気との合併も考えられます。弁護士は、医療記録全体を読み解き、皆様の病状に最も適した主張を組み立てます。 - 複雑な申請手続きの代行
どの制度を利用するにしても、申請には多くの書類と専門的な知識が必要です。弁護士にご依頼いただくことで、これらの煩雑な手続きから解放され、安心して療養に専念できます。
まとめ
胸の痛みや息切れの原因が、びまん性胸膜肥厚である可能性を、決して見過ごさないでください。
- びまん性胸膜肥厚は、胸膜が広範囲に厚くなる、アスベストが原因の病気です。
- 胸膜プラークは、胸膜が部分的に厚くなった痕跡であり、病気ではありません。
- びまん性胸膜肥厚は、呼吸機能を低下させ、労災や救済法、建設アスベスト給付金の補償対象となります。
- 認定には、画像所見に加え、呼吸機能検査の結果が重要になります。
もし、健康診断などで胸膜の肥厚を指摘されたり、原因不明の胸の痛みや息切れに悩んでいたりする方で、過去にアスベストばく露の心当たりがある場合は、すぐに専門医に相談してください。そして、診断が確定したら、私たち法律の専門家にご連絡ください。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、びまん性胸膜肥厚に関するご相談も無料で受け付けております。皆様が受けるべき正当な補償の実現のため、私たちがサポートいたします。
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