はじめに
アスベスト(石綿)は、かつて「奇跡の鉱物」と呼ばれ、世界中で大量に使われてきた鉱物繊維です。その耐熱性や耐薬品性、そして強度の高さから、建築資材や工業製品を中心に幅広く利用されてきました。しかし一方で、健康被害が深刻化するにつれ、アスベストは「静かな時限爆弾」と称されるほど大きな社会問題へと変貌していきました。
日本を含む多くの国では、アスベスト関連疾患の発症報告が相次ぎ、企業や国が長い時間をかけて責任や補償問題に直面することになりました。アスベスト被害の歴史を紐解くと、いかに早期規制や効果的な法整備が重要であったかを痛感させられます。
本稿では、アスベスト問題の歴史的な背景から、日本や海外でどのように規制が強化されてきたのかを概観します。アスベストに関する正しい知識と、これまでの規制強化の道のりを理解することで、今後の被害予防や補償制度の活用に役立てていただければ幸いです。万一、アスベスト問題でお悩みの際は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
Q&A
Q1:アスベストはいつ頃から使用されていたのですか?
文献によっては古代ギリシャやローマ時代から利用されていたとされますが、本格的に産業で大量使用されるようになったのは19世紀後半から20世紀にかけての産業革命期以降です。特に第二次世界大戦後に世界的な建設ブームが重なり、アスベストは多様な分野で急速に広まりました。
Q2:なぜアスベスト被害の対策がこんなに遅れたのですか?
アスベストの危険性自体は20世紀初頭から指摘されていましたが、産業や建設業界にとってアスベストは安価かつ優秀な素材であったため、経済的利益が優先された面があります。また、潜伏期間が数十年と長いため、問題が顕在化するまでに時間がかかったことも大きな要因です。
Q3:日本におけるアスベスト規制はいつから始まりましたか?
1970年代後半から80年代にかけて、一部のアスベスト製品への使用制限が始まりました。その後、1995年ごろから本格的に規制が強化され、2006年にはアスベストの製造・使用が事実上全面禁止となりました。
Q4:海外ではどういった流れで規制が行われたのでしょうか?
欧米諸国が先行してアスベスト被害に警鐘を鳴らしていた背景があり、特にイギリスやアメリカ、北欧諸国は日本より早く規制を強化していました。EU(欧州連合)では2005年に全面禁止が施行され、メンバー国においても使用が厳しく制限されています。
Q5:今でもアスベストを使用している国はあるのですか?
一部の発展途上国や規制が遅れている国では、コストの安さなどからアスベストが依然使用されている場合があります。ただし、世界保健機関(WHO)や国際労働機関(ILO)などの国際機関がアスベスト撤廃を強く推奨していることから、今後さらに規制が広がると考えられます。
解説
アスベストの利用拡大と初期の指摘
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、石綿(アスベスト)を繊維状にして耐火材・断熱材・摩擦材などに利用する技術が発展しました。産業革命の波に乗って工場や船舶で多用されるようになり、特に第二次世界大戦後の復興期には、建設資材として世界中で一気に需要が増大しました。
実はこの頃から、一部の医学者や研究者によってアスベスト粉塵を吸い込んだ労働者の肺疾患が報告されており、1930年代には既に石綿肺や肺がんの発症との関連性が指摘されていました。しかし、アスベスト産業からの反発や経済的利益の大きさもあって、当時は大きく取り上げられることなく、全世界的に使用が継続されました。
日本における規制の歩み
- 1970年代~80年代:部分的な規制開始
- 1975年に特定粉じんとしてアスベストが指定され、作業環境や排出濃度に関する基準が設けられ始めました。
- 1980年代には吹き付けアスベストの使用禁止など、一部の分野で制限がかかりましたが、全面禁止には至らず、他のアスベスト含有製品は依然として市販されていました。
- 1990年代~2006年:段階的な規制強化と事実上の全面禁止へ
- 1990年代からはアモサイト(茶石綿)やクロシドライト(青石綿)の使用が禁止され、クリソタイル(白石綿)についても規制が強まりました。
- 2006年に施行された改正労働安全衛生法や関係法令により、アスベスト含有率が0.1%を超える製品は原則製造・使用が禁止され、事実上の全面禁止となっています。
- 2006年以降:建物解体時の飛散防止と救済制度の拡充
- 大気汚染防止法の改正などにより、アスベスト除去時や建物解体時に飛散防止措置が義務付けられました。
- 2006年には石綿健康被害救済法も施行され、労災保険の対象外となる一般住民や家族の二次暴露被害などに対しても救済給付が行われる枠組みが構築されました。
世界的な規制動向
- 欧州連合(EU)
多くの加盟国が1990年代からアスベスト全面禁止を始め、2005年にはEU全体で全面禁止が実施されました。解体や改修工事でのアスベスト除去も厳格に管理されています。 - アメリカ
1970年代から大気浄化法や有害物質規制法などに基づいて使用制限が進められましたが、全面禁止には至っておらず、依然として一部のアスベスト製品が合法的に流通しています。 - 発展途上国
コストの安さなどの理由で、アスベストが依然として大量に使用されている地域もあります。国際機関はアスベストのリスクを啓発し、規制強化を働きかけていますが、経済的事情などから進展が遅れるケースも多いです。
規制強化の意義と残されている課題
アスベスト規制が強化されたことで、新規使用は大幅に減少しましたが、既存建物や古い製品には大量のアスベストが残存しています。今後数十年にわたって解体工事や自然災害などの際にアスベストが飛散し、被害が続くことが懸念されます。また、石綿健康被害救済法による給付制度が整備されたとはいえ、対象範囲の限界や申請手続きの複雑さが指摘されており、更なる制度の周知徹底や充実を求める声もあります。
弁護士に相談するメリット
過去のアスベスト暴露と損害賠償請求
アスベスト関連疾患は長期の潜伏期間があるため、暴露から数十年後に発症することが多々あります。過去の雇用先や作業現場が既に存在しない、倒産したなどの事情がある場合でも、保険制度や行政救済制度を通じた補償を受け取れる可能性があります。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、過去の事実関係を整理し、最適な手続きをアドバイスします。
石綿健康被害救済法や労災保険などの制度活用
現在の法制度では、労災保険による補償が最も典型的ですが、必ずしもすべてのケースが対象になるわけではありません。また、石綿健康被害救済法も二次暴露などを念頭に設計されていますが、申請手続きや認定基準が複雑な面があり、専門家のサポートが有効です。弁護士に相談すれば、これらの制度を最大限活用する方法を提案してもらえます。
国や企業との交渉・訴訟対応
企業や行政の責任を追及する集団訴訟などが全国各地で行われてきましたが、立証作業や長期の法廷闘争は被害者にとって大きな負担となります。弁護士が代理人となることで、証拠収集や主張立証の専門的な作業を任せられ、時間的・精神的な負担を軽減できます。
まとめ
アスベスト問題の歴史は、産業界の発展と引き換えに多くの人々が健康被害を被ってきた過去を示しています。日本をはじめとする各国で規制が強化された現在でも、既に普及してしまったアスベストをどう処理するか、被害を受けた方をどう救済するかという大きな課題が残されています。
もしもアスベストによる病気が疑われる場合や、解体工事や建物管理などでアスベストの扱いに不安がある場合は、適切な専門家(医療機関、行政、弁護士等)へ早めに相談してください。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、アスベスト被害に関する法的サポートを行っておりますので、お気軽にご連絡いただければ幸いです。
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