〈Q&A〉
Q:アスベスト訴訟とはどのようなものでしょうか?
A: 建物の解体や工場の作業現場などでアスベスト(石綿)の粉じんを吸い込んだ結果、肺がんや中皮腫などの健康被害を受けた方が、国や企業に対して損害賠償を求める訴訟です。
Q:なぜ「和解手続き」が重要なのですか?
A: アスベスト訴訟においては、最高裁判例をベースに和解制度が整備されており、必要な立証事項がある程度決まっています。早期解決のためには、和解に向けた手続きの流れを把握することがとても大切です。
Q:賠償金はどのくらい受け取れるのでしょうか?
A: 賠償金額は症状の重さや合併症の有無、死亡の有無によって異なりますが、目安としては550万円から1300万円の範囲で定められています。
Q:弁護士に相談するメリットは何でしょうか?
A: 手続きが複雑になる場面もあるため、弁護士に依頼することで専門的な立証や書類準備が円滑に進み、適正な賠償金を得られる可能性が高まります。
はじめに
本稿では、アスベスト訴訟における「和解手続きの全体像」と「賠償金を受け取るまでの具体的な流れ」について解説します。アスベストによる健康被害は、時には長期にわたって深刻な症状が続くケースもあるため、早期に適切な手段を講じることが大切です。
1. アスベスト訴訟の概要
アスベスト(石綿)は、建設現場や工場の耐火素材、断熱材などに広く使われていた物質です。しかし、その粉じんを長期間吸い続けることによって、肺がんや中皮腫などの深刻な疾病リスクが高まることが判明しました。
国や企業には、適切な防塵マスクの着用や作業環境の改善といった労働安全策を講じる義務がありますが、これらの義務を怠った結果として労働者に重大な健康被害が生じてしまった場合には、不法行為に基づく損害賠償の責任を問われる可能性があります。
近年では国に対して「国家賠償請求訴訟」としてアスベスト訴訟を提起し、最高裁判決を受けて一定の和解制度が整備されました。現時点でも多くの方がこの制度を利用し、和解によって賠償金を受け取るケースが増えています。
3. 和解成立までの基本的な流れ
訴訟提起前の準備
最初に重要なのは、訴訟を提起するための十分な準備を行うことです。アスベストによる健康被害は、就労していた期間や合併症の有無、労災保険の給付実績など、個別の事情によって証明すべき内容が異なります。
- 法律構成・賠償金請求額の検討
国に対して「どのような法的責任」を追及し、「いくらの賠償金」を請求するかを決めます。 - 証拠収集
年金機構が発行する「被保険者記録照会回答票」や医師の診断書、労災保険給付支給決定通知書など、主張内容に対応する証拠を集める必要があります。
訴訟提起
準備が整ったら、実際に裁判所へ訴状を提出して国家賠償請求訴訟を開始します。管轄裁判所は、原則として被告(国)の所在地を管轄する裁判所ですが、アスベスト工場があった地域や原告自身の住所地などでも提起できる場合があります。
訴状が受理されると、第1回口頭弁論期日が指定されるので、その期日までに「準備書面」を作成し、より詳細な主張や証拠を提示していきます。
口頭弁論期日における主張・立証
1か月程度の間隔で口頭弁論期日が開かれ、国と原告の双方がそれぞれの立場から主張と立証を続けます。アスベスト訴訟では、事前に示されている和解要件(後述「3. 和解成立に必要な立証ポイント」)をすべて満たす必要があり、それを証明するための証拠を十分に揃えることが肝心です。
裁判上の和解と賠償金の受領
和解要件がすべて認められると、国とのあいだで裁判上の和解が成立します。和解調書には確定判決と同じ効力があり、これが成立すると速やかに賠償金の支払いが行われます。支払われる金額は、健康被害の種類や重症度、死亡の有無などによって異なります。
3. 和解成立に必要な立証ポイント
アスベスト訴訟の和解制度は、最高裁判例(いわゆる「泉南アスベスト国家賠償請求訴訟」など)に基づいており、以下の3点が主な立証事項とされています。
一定期間のアスベスト工場従事歴
- 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべきアスベスト工場で、アスベスト粉じんにばく露する作業を行っていたこと
- この期間内に作業従事歴がなければ国への和解金請求の対象外になる可能性がありますが、それ以外の時期にもアスベスト被害が認められれば、別途損害賠償請求が可能なケースもあります。
アスベストによる健康被害の立証
アスベスト訴訟で請求可能な賠償金は、どのような疾病(肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など)か、あるいは管理区分(管理2~4)かによって変わります。そのため、医師が作成する診断書や労災保険の決定通知書などを活用し、具体的な症状を示すことが重要です。
損害賠償請求権の時効
アスベスト訴訟の和解金は、不法行為に基づく損害賠償請求権として位置づけられるため、民法724条および724条の2が定める消滅時効に注意が必要です。
- 2020年4月1日以降は「損害・加害者を知ったときから5年」または「不法行為から20年」で時効が完成
- 2020年3月31日以前に遡る場合は「損害・加害者を知ったときから3年」が適用される可能性もある
手続きを先延ばしにすると、時効で請求が認められなくなるリスクがあります。
4. アスベスト訴訟の賠償金額の目安
アスベスト訴訟の和解金額は、症状の種類や合併症の有無などによって段階的に設定されています。大まかな目安は以下のとおりです。
症状・区分 |
和解金額 |
---|---|
管理2(合併症なし) |
550万円 |
管理2(合併症あり) |
700万円 |
管理3(合併症なし) |
800万円 |
管理3(合併症あり) |
950万円 |
管理4で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚 |
1150万円 |
石綿肺(管理2・3合併症なし)による死亡 |
1200万円 |
石綿肺(管理2・3合併症あり または 管理4)+ 肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚による死亡 |
1300万円 |
これらの基準はあくまで目安であり、個別の症状や就労状況によっても変わる場合があります。自分がどの区分に当たるのか不明なときには、早めに医師や弁護士に相談して確認するとよいでしょう。
5. 弁護士に相談するメリット
アスベスト訴訟は、一定の和解制度が整っているとはいえ、医学的知識や法律的知識が必要となる場面が多々あります。ここでは、弁護士に相談・依頼するメリットをご紹介します。
- 専門的な立証をサポート
- 病状証明のための医療記録や診断書を精査し、より正確に立証するための資料を整えます。
- 必要に応じて専門医とコミュニケーションを取りながら、適正な症状区分を示す書類を準備できます。
- 消滅時効への適切な対処
- 時効の起算点や更新方法など、時効にかかわる法律知識を駆使して早期に手続きを行います。
- 訴訟提起や内容証明郵便などの方法で、消滅時効の成立を防ぐためのアドバイスを受けられます。
- 裁判手続きの負担軽減
- 書類作成や法的主張の組み立て、証拠の提出スケジュールなどを弁護士が管理するため、依頼者の負担が大幅に軽減されます。
- 国との和解交渉にあたっても、適正な金額や条件を主張しやすくなります。
- 適正な賠償金の獲得可能性アップ
- 弁護士の経験や知見を活かすことで、自身のケースに合った最適な戦略を立てやすくなります。
- 個人で行うよりも、より充実した立証活動を行いやすく、結果的に適正な賠償金を得られる可能性が高まります。
これらのメリットは、医療面や法律面で専門知識が必要なアスベスト訴訟ならではといえるでしょう。特に大きな病院や複数の医師の診断が絡む場合は、弁護士の存在が心強い味方となります。
6. まとめ
アスベスト訴訟は、最高裁判例を軸に和解制度が整備され、比較的スムーズに手続きを進められる特徴があります。しかし、実際には「就労期間の特定」「医学的な立証」「消滅時効の管理」など、専門知識が求められる場面も数多く存在します。
- 早めの準備と証拠収集が大切
- 適切な賠償金を得るためには健康被害の内容を正しく証明する必要がある
- 時効リスクを回避するためにも迅速な行動が求められる
もし少しでも不明な点や不安があれば、ぜひ弁護士に相談してみてください。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、アスベスト訴訟に関するご相談から書類作成、裁判手続きまでサポートいたします。皆さまの問題解決に尽力いたしますので、どうぞお気軽にご連絡ください。
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