はじめに
長年、建設現場で汗を流してこられた皆様、そしてそのご家族の皆様へ。
建設現場での業務を通じてアスベスト(石綿)にさらされ、中皮腫や肺がんなどの重篤な健康被害に苦しまれている方は少なくありません。これまで、国や建材メーカーの責任を問うためには、裁判という長い時間と労力を要する手続きを経る必要がありました。
しかし、2021年(令和3年)5月、最高裁判所において国と建材メーカーの責任を認める統一的な判断が下されたことを受け、被害者を迅速に救済するための新たな制度が創設されました。それが「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、建設アスベスト給付金法)」に基づく建設アスベスト給付金制度です。
この制度は、訴訟を提起することなく、所定の要件を満たすことで国から給付金を受け取ることができる仕組みです。しかし、制度の仕組みや認定要件は法律に基づいて細かく定められており、「自分が対象になるのか」「どのくらいの金額が受け取れるのか」「手続きには何が必要なのか」といった疑問を抱かれる方も多くいらっしゃいます。
本記事では、建設アスベスト給付金制度の全体像から、具体的な対象者、給付金額、申請手続きの流れまでを、法律の専門家としての視点を交えつつ解説します。ご自身やご家族が制度の対象となる可能性がある方は、ぜひ最後までお読みいただき、適切な救済を受けるための一助としてください。
Q&A:建設アスベスト給付金についてのよくある疑問
まずは、多くの方が疑問に思われるポイントについて、Q&A形式で簡潔にお答えします。
Q1. 労災認定を受けていなくても、建設アスベスト給付金は請求できますか?
はい、請求可能です。
労災保険給付や石綿健康被害救済法による給付を受けていない方でも、建設アスベスト給付金の要件(特定の期間、建設業務に従事し、アスベスト関連疾病を発症したことなど)を満たせば、認定を受けることができます。ただし、すでに労災保険などから給付を受けている場合は、その金額との調整が行われる場合があります。
Q2. 亡くなった家族が元建設作業員でした。遺族も給付金を請求できますか?
はい、ご遺族からの請求も可能です。
対象となる方がすでに亡くなられている場合、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順位で、最優先順位のご遺族が請求を行うことができます。請求には期限がありますので、早めの確認が重要です。
Q3. 一人親方や中小事業主として働いていましたが、対象になりますか?
はい、対象となります。
これまでの労災保険制度では救済が難しかった「一人親方」や「中小事業主(家族従事者を含む)」の方々も、建設アスベスト給付金制度の対象に含まれています。これは、最高裁判決により、国が労働者だけでなく一人親方等に対しても責任を負うと判断されたためです。
解説:建設アスベスト給付金制度の詳細
ここからは、建設アスベスト給付金制度の内容について、具体的に解説していきます。
1. 制度創設の背景と目的
かつて多くの建設現場では、耐火・断熱・防音などの目的でアスベスト(石綿)を含む建材が大量に使用されていました。国はアスベストの危険性を認識し得る状況にあったにもかかわらず、長期間にわたり適切な規制や警告を行いませんでした。その結果、多くの建設作業員がアスベスト粉じんを吸入し、後年になって重篤な健康被害を発症することとなりました。
被害者の方々による長年の法廷闘争の結果、2021年5月、最高裁判所は国の責任を認める判決を確定させました。これを受けて、同様の被害に遭われた方々を訴訟によらず迅速に救済するために作られたのが、この給付金制度です。
2. 給付金の支給対象者(認定要件)
給付金を受け取るためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
(1) 建設業務に従事していたこと
日本国内において、建設業務(土木、建築、その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体等の作業)に従事していたことが必要です。
(2) 特定の期間に就労していたこと
以下の期間内に、対象となる業務に従事していたことが要件となります。
- 昭和47年(1972年)10月1日 から 平成16年(2004年)9月30日 までの間
- 上記期間内であっても、石綿の吹付作業や、一定の屋内作業に従事していた期間が対象となります。
(3) 対象となる職種・作業内容であること
主に、アスベスト粉じんの曝露リスクが高い作業に従事していたことが求められます。
- 屋内作業従事者: 建物の内部で作業を行っていた方(大工、内装工、電工、配管工、左官、塗装工、空調設備工、サッシ工など)。
- 吹付作業従事者: アスベストの吹付作業を行っていた方。
- ※屋外作業が中心であった場合でも、従事していた内容によっては対象となる可能性がありますが、個別の判断が必要となることが多いです。
(4) 労働者、一人親方、中小事業主等であること
雇用されて働いていた「労働者」だけでなく、「一人親方」や「中小事業主(家族従事者を含む)」も対象です。ただし、従事していた時期によって、国の責任期間(対象となる期間)が異なる場合があります。
- 労働者: 昭和47年10月1日~平成16年9月30日
- 一人親方等: 昭和50年10月1日~平成16年9月30日
(5) 指定のアスベスト関連疾病を発症していること
アスベストの吸入により、以下のいずれかの疾病にかかったことが医師により診断されている必要があります。
- 中皮腫(ちゅうひしゅ)
- 肺がん(原発性肺がん)
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺(じん肺管理区分が管理4相当、または管理2・3等で合併症がある場合など)
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
- 良性石綿胸水(著しい呼吸機能障害を伴うもの)
3. 給付金額
給付金の額は、発症した病気の種類や重症度、および被災区分(いつ、どの期間アスベストに曝露したか)によって決定されます。
基本となる給付額
- 死亡:1300万円
- 中皮腫・肺がん・石綿肺(管理区分4)・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水: 1150万円
- 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のある方:950万円
- 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない方:800万円
- 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のある方:700万円
- 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない方:550万円
減額調整について
- 喫煙習慣の影響: 肺がんの場合で、喫煙習慣があったと認められる場合は、給付額が1割減額されることがあります(例:1,300万円→1,170万円)。
- 曝露期間: アスベストに曝露した期間が短い場合、給付額が減額される可能性があります。
- 既に受け取った賠償金等: 過去に国を相手とした訴訟で和解金を受け取っている場合などは、その額が控除されることがあります。なお、労災保険給付や石綿健康被害救済法の給付とは、原則として併給が可能です(ただし、遅延損害金等に関する調整が生じる場合があります)。
4. 申請・請求の手続き
建設アスベスト給付金の請求手続きは、原則として厚生労働省(都道府県労働局)に対して行います。一般的な流れは以下の通りです。
Step 1: 資料の収集
申請には、ご自身の主張を裏付けるための証拠資料が必要です。
- 就業歴を証明する書類: 年金記録(被保険者記録照会回答票)、雇用保険被保険者証、所得証明書、確定申告書、共済手帳、健康診断の記録など。当時の同僚等の証明書(申立書)が必要になることもあります。
- 医学的資料: 医師の診断書、エックス線画像、CT画像、病理組織検査報告書など。特に、アスベスト関連疾患であることを医学的に厳密に証明する必要があります。
- 戸籍謄本等: ご本人確認書類、または遺族請求の場合は続柄を証明する書類。
Step 2: 認定請求書の作成・提出
厚生労働省が定める「認定請求書」に必要事項を記入し、収集した資料を添付して、最寄りの労働局へ提出します。
Step 3: 認定審査会による審査
提出された書類に基づき、「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会」において、支給要件を満たしているかどうかの審査が行われます。この審査には医学的な専門家も関与し、病状や曝露歴が厳密にチェックされます。
Step 4: 認定通知・給付金の支給
審査の結果、認定されれば「認定通知書」が送付され、指定した口座に給付金が振り込まれます。不認定となった場合は、その理由が通知されます。不認定の結果に不服がある場合は、審査請求を行うことも可能です。
5. 請求期限(時効)について
建設アスベスト給付金の請求には期限があります。
- 原則: アスベスト関連疾病の認定を受けた日、または死亡した日から20年以内。
- 特定期間の特例: 法律の施行日(令和3年6月9日)より前に、すでに病気を発症していたり亡くなられていたりする場合でも、施行日から一定期間は請求が可能です。ただし、権利が消滅する「時効」の問題は法律的に複雑なため、古い事案であっても諦めずに専門家へ相談することをお勧めします。
弁護士に相談するメリット
建設アスベスト給付金制度は、被害者を広く救済するための制度ですが、実際に申請を行い、適切な金額を受給するためには、クリアすべきハードルがいくつか存在します。弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットが得られます。
1. 複雑な「就業歴」の証明をサポート
給付金を受け取るためには、数十年前にさかのぼって「いつ」「どこで」「どのような作業をしていたか」を証明しなければなりません。
当時の会社がなくなっていたり、資料を紛失していたりすることは珍しくありません。弁護士は、年金記録の解析や、当時の同僚からの聞き取り、関連する建設現場の資料調査など、法的な観点から有効な証拠収集をサポートします。「証明できる書類がないから」と諦める前に、専門家の知恵を借りる価値はあります。
2. 医学的な認定要件の確認
アスベスト関連疾患の認定は、高度な医学的判断を伴います。特に「石綿肺」や「びまん性胸膜肥厚」の場合、画像診断の結果や呼吸機能検査の数値が認定の可否を分けます。
弁護士は、アスベスト被害に詳しい協力医と連携し、提出する診断書や画像データが認定基準を満たしているかどうかを事前に精査することが可能です。適切な資料を提出することで、スムーズな認定につながる可能性が高まります。
3. 「建材メーカー」に対する損害賠償請求の検討
建設アスベスト給付金はあくまで「国」からの給付ですが、被害の原因を作ったのは国だけではありません。多くの場合、アスベスト建材を製造・販売していた「建材メーカー」に対しても法的責任を問うことができます。
メーカーに対する損害賠償請求は、給付金制度とは別に、訴訟(または和解手続き)を行う必要があります。弁護士に依頼すれば、給付金の申請と並行して、メーカーに対する賠償請求の可能性も検討し、被害回復の最大化を目指すことができます。
4. 手続きの代行による負担軽減
病気療養中の方や、ご家族を亡くされたご遺族にとって、複雑な書類作成や役所とのやり取りは大きな精神的・肉体的負担となります。弁護士に依頼することで、書類の収集から作成、提出までの一連の手続きを任せることができ、治療や生活の再建に専念することができます。
5. 適切な受給額の確保
ご自身の病状がどの区分に該当するか、減額事由に該当しないかなど、専門的な判断が必要な場面は多々あります。弁護士が代理人として関与することで、不当に低い金額で認定されることを防ぎ、本来受け取るべき正当な補償額の確保に努めます。
まとめ
建設アスベスト給付金制度は、長きにわたり過酷な環境で日本の建設業を支え、その結果として病魔に侵された方々のための権利です。
「昔のことだから証拠がない」「自分は対象外かもしれない」とご自身だけで判断せず、まずは専門家の意見を聞いてみてください。
記憶の糸をたどり、埋もれている資料を掘り起こすことで、救済の道が開けるケースもあります。私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所は、アスベスト被害に遭われた方とそのご家族が、正当な補償を受け取り、少しでも心穏やかな生活を取り戻せるよう、サポートいたします。
相談は無料で行っている場合も多く、まずは「話を聞いてみる」という一歩が大切です。アスベスト被害に関するお悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
ご案内
当事務所では、各法律問題に関する動画解説を配信中です。ぜひご視聴ください!
長瀬総合のYouTubeチャンネル
当事務所では事務所からのお知らせやセミナーのご案内等を配信するメールマガジンを運営しています。
ご興味がある方は、こちらのご登録もご検討ください!
長瀬総合のメールマガジン