コラム

2025/10/11 コラム

労災認定の鍵「じん肺管理区分」とは?区分ごとの措置と補償内容

はじめに

建設現場や工場など、長年にわたって粉じんの舞う環境で働いてこられた方が、健康診断などで「じん肺」の疑いを指摘されることがあります。特に、その原因がアスベスト(石綿)である「石綿肺」の場合、それは労災保険による手厚い補償の対象となる「業務上疾病」です。

その労災認定のプロセスにおいて、極めて重要な役割を果たすのが「じん肺管理区分」という制度です。この「管理区分」がいくつに決定されるかによって、講じられるべき健康管理措置や、受けられる補償の内容が大きく変わってきます。しかし、この制度は専門的で分かりにくく、正確な理解は容易ではありません。

この記事では、アスベスト関連疾患の労災認定の鍵となる「じん肺管理区分」について、その法的な定義や区分ごとの措置、申請手続きの流れを詳しく解説します。 

Q&A

Q1. 「じん肺管理区分」とは、一体何のための制度ですか?

これは、じん肺法という法律に基づく、じん肺にかかった労働者の健康を守るための制度です。じん肺は一度かかると治らないため、それ以上悪化させないための健康管理が重要になります。そこで国は、じん肺健康診断の結果(主に胸部X線写真の所見)に基づき、病気の進行度を区分し、その区分に応じた健康管理(作業転換の指導など)を行うのです。そして、この行政上の「区分」が、労災保険の給付を受けられるかどうかの重要な判断基準としても利用されています。

Q2. 現在は退職していますが、管理区分の決定を受けることはできますか?

はい、できます。じん肺管理区分の決定申請は、在職中の労働者だけでなく、既に離職した方も行うことができます。離職後に息切れなどの症状が悪化し、初めて申請される方も多くいらっしゃいます。

Q3. 申請すれば、必ず区分は決定してもらえますか?

申請には、じん肺健康診断の結果を記載した医師の診断書や、粉じん作業に従事した職歴を証明する書類などが必要です。これらの書類を基に、都道府県労働局が地方じん肺診査医の意見を聞いて審査を行い、区分を決定します。したがって、適切な医療機関で検査を受け、職歴を正確に申告することが重要です。

解説

じん肺管理区分の4つの段階とそれぞれの措置

じん肺管理区分は、じん肺法および関連法令に基づき、胸部X線写真で確認できる線維化の度合い(陰影の型)や呼吸機能障害の有無によって、法的に厳密に定義されています。数字が大きくなるほど、病状が進行していることを示します。

管理区分

法的定義の要点(じん肺法第4条第2項、同施行規則第2条)

主な措置・給付内容

管理1

じん肺の所見がないと認められるもの。

健康管理を継続。

管理2

エックス線写真の像が第一型で、じん肺による著しい呼吸機能の障害がないと認められるもの。

事業者は作業転換に努める必要あり。転換に伴い賃金が低下した場合「転換手当」の対象。合併症があれば労災療養給付等の対象。

管理3

エックス線写真の像が第二型、又は第三型(大陰影が一側の肺野の1/3以下)で、じん肺による著しい呼吸機能の障害がないと認められるもの。

都道府県労働局長は事業者に対し作業転換を勧奨できる。合併症があれば労災療養給付等の対象。

管理3

管理3イに該当し、合併症(肺結核等)にかかっているもの。

労災保険による療養給付等の対象。

管理4

エックス線写真の像が第四型(大陰影が一側の肺野の1/3を超える)、又はエックス線写真の像の型に関わらず、じん肺による著しい呼吸機能の障害があると認められるもの。

療養が必要。障害(補償)年金や遺族(補償)年金など、最も手厚い労災給付の対象となり得る。

特に重要なのは、「管理4」または「管理23で合併症がある」場合に、労災保険の療養(補償)給付や休業(補償)給付の対象となる点です。また、管理4に該当するような重篤な状態は、障害(補償)年金や遺族(補償)年金といった、より手厚い年金給付に繋がる可能性があります。

じん肺管理区分決定までの手続きの流れ

  1. ステップ1:じん肺健康診断の受診
    呼吸器内科などの専門医療機関で、問診、胸部X線写真、呼吸機能検査などを受けます。
  2. ステップ2:必要書類の準備
    • じん肺管理区分決定申請書
    • じん肺健康診断証明書(医師が作成)
    • 胸部X線写真
    • 職歴申立書:いつ、どこで、どのような粉じん作業に従事したかを具体的に記載します。
  3. ステップ3:都道府県労働局への申請
    最終的に粉じん作業に従事した事業場の所在地を管轄する都道府県労働局に書類を提出します。
  4. ステップ4:決定通知の受領
    申請後、数か月で「じん肺管理区分決定通知書」が届きます。この決定に基づき、労災保険の給付申請などの次のステップに進みます。

なぜ、弁護士への相談が必要なのか

じん肺管理区分の申請は、被害者ご本人でも可能ですが、専門的な知識を持つ弁護士がサポートすることで、より有利な結果を得られる可能性が高まります。

  • 重要な「職歴申立書」の作成をサポート: 過去の職歴を正確に証明することは、申請における最大の難関です。弁護士は、年金記録等の公的資料を取り寄せ、皆様の記憶と照合しながら、抜け漏れのない正確な職歴申立書を作成します。
  • 医療機関との連携: 労災申請に理解のある医療機関の情報を提供したり、診断書を作成する医師に必要な情報を提供したりすることで、医学的な証明活動を円滑に進めるお手伝いをします。
  • 不服申立てによる徹底した対応: 労働局の決定に不服がある場合、弁護士は代理人として、審査請求、再審査請求、さらには行政訴訟といった法的な不服申立て手続きを行い、正当な権利が認められるまで争います。

まとめ

「じん肺管理区分」は、アスベスト(石綿肺)による健康被害に対する、労災補償の扉を開くための重要な鍵です。

  • じん肺の進行度を示す「管理1」から「管理4」までの区分です。
  • 「管理2」以上に決定されると、様々な措置や給付の対象となります。
  • 特に「管理4」や合併症を伴う場合は、年金給付など、より手厚い補償への道が開けます。
  • 申請手続きの核心は「職歴の正確な証明」にあり、法律の専門家である弁護士のサポートが大きな力となります。

長年の仕事で蝕まれたあなたの肺は、国によってきちんと補償されるべきです。息切れや咳を「年のせい」と片付けず、まずはご自身の権利を知ってください。


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