アスベストばく露歴が不明な場合の調査方法|弁護士が解説する証拠の探し方
はじめに
「咳が止まらない。医者にはアスベストの可能性を指摘された。でも、いつ、どこで吸ったのか、昔のことで全く思い出せない…」
「働いていた会社は、もうとっくに倒産してしまった。証拠なんて何も残っていない…」
アスベスト被害は、数十年という長い潜伏期間があるため、いざ発症した時に、その原因となった「ばく露歴」を思い出せない、証明できないという壁に突き当たる方が少なくありません。そして、多くの方が「証拠がないから」と、正当な補償を受けることを諦めてしまっています。
しかし、記憶が曖昧でも、会社がなくなっていても、道が完全に閉ざされたわけではありません。公的な記録を辿り、客観的な証拠を一つひとつ積み重ねていくことで、失われた過去を明らかにし、ばく露の事実を証明できる可能性があります。
この記事では、アスベストのばく露歴が不明な場合の具体的な調査方法を、マニュアル形式で解説します。
ばく露歴の調査に関するQ&A
Q1. 30年以上も前のことで、会社の名前さえ曖昧です。こんな状態からでも調査は可能ですか?
はい、可能です。ご自身の記憶だけに頼る必要はありません。例えば、お近くの年金事務所で「被保険者記録照会回答票」という書類を取得すれば、あなたが過去に厚生年金に加入していた会社の正式名称や所在地、在籍期間が一覧で分かります。これは、職歴調査の最も基本的で強力な第一歩です。この公的な記録を起点として、調査を深めていくことができます。
Q2. 建設現場を転々としていたので、どこでばく露したか特定できません。
建設業に従事されていた方の場合、すべての現場を完璧に証明する必要はありません。重要なのは、「アスベスト含有建材を扱う作業が一般的に行われていた時期に、建設業に従事していた」という事実と、「どのような種類の作業(大工、左官、配管工など)をしていたか」を明らかにすることです。建設アスベスト給付金制度では、特定の期間・特定の職種に従事していた事実が証明できれば、個別の現場が特定できなくても、ばく露があったものとして救済の対象となる場合があります。
Q3. 調査には、高額な費用がかかるのではないでしょうか?
ご自身で公的な記録を取り寄せる場合、費用は1通数百円程度の発行手数料(実費)のみです。弁護士に調査を依頼する場合の費用は、法律事務所によって異なりますが、当事務所では、アスベスト被害に関するご相談や初期の調査に関するアドバイスは無料で行っております。また、正式にご依頼いただく場合も、着手金無料で、給付金や賠償金が得られた場合にのみ報酬をいただく「成功報酬制」を採用しておりますので、初期費用のご心配なくご依頼いただけます。
【解説】アスベストばく露歴調査マニュアル
記憶の糸をたぐり寄せ、証拠を見つけ出すための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:自分史(職歴年表)を作成し、記憶を整理する
まずは、ご自身の頭の中にある情報をすべて書き出してみましょう。焦らず、ゆっくりと思い出すことが大切です。
用意するもの
ノート、筆記用具
書き出すこと
- 学歴
最終学歴と卒業年次を書き出す。 - 職歴
学校卒業後から現在まで、働いた経験を時系列ですべて書き出す。(正社員、契約社員、アルバイト、日雇い、一人親方など、雇用形態は問いません) - 各職歴の詳細
- 会社名、所在地、在籍期間(「〇〇年頃から〇年間」など、おおよそで構いません)
- 具体的な仕事内容(例:「ビルの建設現場で、壁にボードを貼る作業」「工場のボイラーのメンテナンス」など)
- 扱っていた材料や道具(例:「波型の屋根材を切断した」「白い綿のようなものを配管に巻いた」など)
- 当時の同僚や上司の名前(一人でも思い出せれば、大きな手がかりになります)
この作業で、忘れていた記憶がよみがえってくることがあります。
ステップ2:公的な記録を取り寄せ、客観的な裏付けをとる
記憶を客観的な事実で裏付けるため、国の機関が保管する記録を取り寄せます。これは調査の核となる部分です。
① 年金事務所へ行く
- 取得する書類
「被保険者記録照会回答票」 - 分かること
厚生年金に加入していた会社の正式名称、所在地、加入期間。 - 必要なもの
年金手帳または基礎年金番号通知書、本人確認書類(運転免許証など)。
② ハローワークへ行く
- 取得する書類
「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」 - 分かること
雇用保険に加入していた会社の情報。年金記録を補完できます。 - 必要なもの
本人確認書類。
③ (建設業の方)建退共の窓口へ
- 取得する書類
- 「退職金共済手帳」の加入履歴
- 分かること
建設業退職金共済に加入していた期間や、証紙を貼ってくれた元請け企業名などが分かる場合があります。
ステップ3:当時の状況証拠を集める
職歴が判明したら、その職場でアスベストを扱っていた可能性を探ります。
- ① 同僚・元上司を探し、話を聞く
最も強力な証拠は「人の記憶」です。当時の同僚を探し出し、「あの時、こんな作業をしたよね」と話を聞くことで、記憶が鮮明になり、作業内容を証明する「陳述書」を書いてもらえる可能性があります。年賀状、同窓会名簿、近年ではSNSなども手掛かりになります。 - ② 会社の登記情報を確認する
法務局で「履歴事項全部証明書」を取得すれば、会社の事業目的や、現存しているか、いつ解散したかなどが分かります。 - ③ 遺族として調査する場合
故人の職歴調査はさらに難航しますが、遺品(給与明細、手帳、現場写真、社員証など)が重要な手がかりになります。また、親族や故人の友人に話を聞くことも大切です。遺族であることを証明する戸籍謄本などがあれば、ご遺族として公的記録を取り寄せることができます。
なぜ、弁護士への相談が必要なのか
ばく露歴の調査は、ご自身で進めるには限界があり、法的な知識と専門的なノウハウが重要です。弁護士は、法的専門家として皆様をサポートします。
- ロードマップの策定
どこから手を付け、次に何をすべきか。弁護士は、調査全体のロードマップを描き、効率的かつ戦略的に調査を進めるための的確なアドバイスを提供します。 - 煩雑な手続きの代行
年金記録の取得や法務局での登記情報取得など、時間と手間のかかる手続きをすべて代行します。同僚の方への陳述書作成の依頼なども、ご本人に代わって行います。 - 弁護士だけの特別な調査権限「23条照会」
弁護士は、「弁護士会照会(23条照会)」という、弁護士法で認められた特別な権限を持っています。これを用いることで、ご本人では開示を受けられないような情報を、企業や官公庁に対して照会し、回答を求めることができます。これは、証拠が乏しい場合に有効な手段です。
まとめ
アスベストのばく露歴が分からなくても、すぐに諦める必要はありません。
- まずは「職歴年表」を作成し、ご自身の記憶を整理することから始めましょう。
- 年金記録などの「公的記録」を取り寄せれば、客観的な職歴が判明します。
- 「同僚の証言」は、作業内容を証明する上で、何よりの証拠となります。
- これらの調査は一人で抱え込まず、法律と調査の専門家である弁護士に任せるのが有効です。
「記憶がないから」「証拠がないから」という言葉で、ご自身の正当な権利を閉ざさないでください。その失われた過去のピースを探し出すために、私たち弁護士がいます。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ばく露歴の調査に関するご相談も無料で承っております。 どんなに断片的な情報でも構いません。まずは、お話をお聞かせください。
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