コラム

2025/08/22 コラム

父親がアスベスト関連の仕事…家族への健康被害(ばく露)は?

【家族も被害者に】夫の作業着が原因?アスベストの家庭内ばく露と救済制度を弁護士が解説

はじめに

「アスベスト被害は、工事現場や工場で働く男性の問題」

もし、そう思われているなら、その認識を改める必要があるかもしれません。アスベストの脅威は、職場という囲いを越え、家庭にまで及ぶことがあります。粉じんまみれで帰宅した夫や父親の作業着を、愛情をもって洗濯していた妻。仕事帰りの父親に、無邪気に抱きついていた子供。

こうした何気ない日常の光景の中で、目に見えないアスベスト繊維は家族の肺へと静かに侵入し、数十年後に深刻な病気を引き起こすことがあるのです。これを「家庭内ばく露」または「家族ばく露」と呼びます。

この記事では、これまであまり語られてこなかった「ご家族」のアスベスト被害に焦点を当て、その実態と、労働者でなくても利用できる救済制度について解説します。

家族のアスベスト被害に関するQ&A

Q1. 夫の作業着を洗濯していただけで、本当に病気になるのですか?

はい、残念ながらその可能性は十分にあります。昔の建設現場や工場では、防じん対策が不十分なことが多く、労働者は大量のアスベスト粉じんを浴びながら作業していました。そのため、一日仕事を終えた作業着には、目に見えない無数のアスベスト繊維が付着していました。その作業着を家で洗濯する際に、はたいたり、他の洗濯物と一緒に洗ったりすることで、アスベスト繊維が空気中に舞い上がり、それを吸い込んでしまうのです。アスベスト工場で働く労働者の妻が悪性中皮腫を発症した事例などが報告されており、その関連性が認められています。

Q2. 私は働いた経験のない専業主婦です。それでも、何か補償を受けられるのでしょうか?

はい、受けられます。これこそが、ご家族の被害者の方に最も知っていただきたい点です。仕事中のケガや病気を補償する「労災保険」は労働者しか使えませんが、アスベスト被害には、労災保険の対象とならない方を救済するための「石綿健康被害救済法」という特別な法律があります。家庭内ばく露によってアスベスト関連疾患にかかったご家族(妻、子など)や、アスベスト工場の近くに住んでいたことで被害を受けた方などは、この法律に基づいて、医療費や療養手当などの給付を受けることができます。

Q3. 父はアスベストが原因の肺がんで亡くなりました。母も最近、呼吸が苦しそうです。何か関係はありますか?

その可能性は否定できません。お父様がアスベストにばく露する環境で働いていたのであれば、お母様も家庭内でばく露していた可能性があります。お母様の呼吸器症状がアスベストに関連しているかどうかは、精密検査をしなければ分かりませんが、一刻も早く呼吸器内科の専門医を受診されることをお勧めします。そして、医師には必ず「亡くなった夫がアスベスト関連の仕事をしており、肺がんだった」という事実を伝えてください。それは、診断の重要な手がかりとなります。

【解説】家庭に忍び寄るアスベストの脅威

アスベスト被害が家族に及ぶ経路は、主に2つあります。

1. 家庭内ばく露(二次ばく露)

労働者本人が直接アスベストを吸い込むことを「一次ばく露」と呼ぶのに対し、その労働者を介して家族などが間接的に吸い込むことを「二次ばく露」と言います。

ばく露の具体的な状況

  • 作業着の洗濯
    夫や父親の粉じんだらけの作業着を、他の家族の衣類と一緒に、あるいは別にして洗う際、粉じんを吸い込む。洗う前にはたく行為は特に危険です。
  • 室内の汚染
    作業着のまま家の中を歩いたり、ソファに座ったりすることで、家中にアスベスト繊維が拡散する。
  • 身体的な接触
    帰宅した父親に子供が抱きついたり、一緒に布団で寝たりすることで、髪や身体に付着した繊維を吸い込む。

当時は、アスベストの危険性が家族にまで及ぶとは誰も考えていませんでした。家族を思う真面目な労働者ほど、粉じんまみれになって一生懸命働き、その家族が知らず知らずのうちに被害に遭うという現実があります。

2. 近隣ばく露

アスベストを製造・加工していた工場の周辺に住んでいたことで、工場から大気中に排出されたアスベスト繊維を、日常生活の中で長期間にわたって吸い込んでしまうケースです。

ばく露の具体的な状況

  • 窓を開けての換気
  • 屋外での洗濯物の乾燥
  • 子供の屋外での遊び
  • 畑仕事など

この問題の深刻さが社会的に大きく認識されるきっかけとなったのが、「泉南アスベスト訴訟」です。大阪府泉南地域のアスベスト工場周辺で、多数の住民に健康被害が発生し、国と企業の責任を問う裁判が起こされました。最終的に最高裁判所は、国の対策の遅れを認め、賠償を命じました。

家族のための救済制度「石綿健康被害救済法」

家庭内ばく露や近隣ばく露によってアスベスト関連疾患(悪性中皮腫、肺がんなど)にかかった方は、前述の「石綿健康被害救済法」に基づく救済給付の対象となります。

給付の内容(主なもの)

    • 医療費
      認定された病気の治療にかかる医療費の自己負担分。
    • 療養手当
      生活費の補填として、月額約10万円。
    • 葬祭料
      認定患者が亡くなられた場合に、葬儀を行った方に支給。
    • 特別遺族弔慰金・特別葬祭料
      認定患者が亡くなられた場合に、ご遺族に支給。

認定のポイント

この給付を受けるには、「日本国内において石綿を吸入することにより指定疾病にかかったこと」について、独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)の認定を受ける必要があります。その最大の関門が「アスベストばく露の証明」です。

ご自身が働いていたわけではないため、ばく露を証明するのは簡単ではありません。

「夫(父)が、いつ、どこで、どのようなアスベスト作業をしていたのか」
「家庭内で、どのような状況でばく露したと考えられるのか」

これらを、客観的な資料や具体的な陳述書によって、説得力をもって主張する必要があります。

なぜ、弁護士への相談が必要なのか

ご家族のアスベスト被害の救済申請は、ご本人で進めるには困難な点が多く、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。

  1. 「ばく露の証明」を全面的にサポート
    弁護士は、最も困難な「ばく露の証明」を、法的な観点から強力にバックアップします。夫や父親の職歴を公的記録から調査し、当時の作業内容を特定します。そして、ご本人から生活状況を丁寧に聞き取り、説得力のある陳述書を作成するなど、認定の可能性を最大限に高めるための活動を行います。
  2. 複雑な申請手続きの代行
    石綿健康被害救済法の申請には、多くの書類収集や作成が必要です。弁護士にご依頼いただければ、これらの煩雑な手続きをすべて代行いたしますので、ご本人は治療に専念したり、落ち着いた生活を取り戻したりすることができます。
  3. 精神的な負担の軽減
    「あの時、作業着を洗わなければ」と、ご自身を責めてしまう被害者の方もいらっしゃいます。しかし、悪いのは危険性を知りながら対策を怠った国や企業であり、ご家族には何ら責任はありません。弁護士は、法的なサポートだけでなく、皆様の心に寄り添い、精神的な支えとなることを目指しています。

まとめ

アスベストの悲劇は、時に世代と職場を越えて、大切なご家族にまで及ぶことがあります。

  • 夫や父親の作業着の洗濯などを通じて、家族もアスベストにばく露し、健康被害を受けることがあります。
  • 働いた経験がない専業主婦や子供でも、「石綿健康被害救済法」によって医療費などの給付を受けられる道があります。
  • 認定を受けるためには、家族の仕事内容や家庭での状況を証明する必要がありますが、それは決して不可能なことではありません。

もし、ご家族にアスベスト関連の仕事をしていた方がいて、ご自身の健康に不安を感じている、あるいは既にアスベスト関連疾患と診断されたという方は、絶対に一人で悩まないでください。あなたも、法的に救済されるべき被害者なのです。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご家族のアスベスト被害に関するご相談も無料で受け付けております。 どんな些細なことでも構いません。私たちに、皆様の権利を取り戻すお手伝いをさせてください。


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